SOUND・BOND
バン・バン・バン・シャァ~ンと、緊迫したスタジオのC-2の部屋に突然ドラムの音が響いた。もちろんそれを叩くのは一人しかいない。

小柄な体をドラムセットが囲み、そこから鋭い音が連打する。


「光?」


いつそこに座ったのか分からないが、この沈み切った空気をドラムの音で解消したかったのだろう。薫季はそんな彼の様子を窺う。


「なんでこんなにムカムカするんだぁ?こいつを叩いてもちっとも面白くない……」


大きな独り言を口にする光。普段は明るく、元気をそこら中に振り撒いては騒いでいるのに、今の彼は全くの逆だ。表情が沈み切っていてこっちも声をかけづらい。


「光……」


彼のもやもやした気持ちは良く分かる。今まで必死にやってきた薫季を含むこっちの3人は、今、信じてきた仲間に裏切られたのだから。

いや、裏切られたのは今に始まったことではなかったのだ。

ここのところリーダーである卓は、客への暴力を頻繁(ヒンパン)に起こしていた。

他のライバルバンドから野次が飛べば、演奏中にも関わらずステージから飛び降り、真っ直ぐ殴りにかかって行くという場面が何度もあった。きっと彼はプロになるという自信を失いイラついていたのだろう。

それがある度に出入り禁止をくらい、肩身の狭い思いをしてきた。

それからだ、ついて来ていたファンも数が減り、秋司の言うSTORM(嵐)はライブハウス荒らしという異名で呼ばれるようになったのは。

この現状では名前どおりのバンドだ、なんて言われても仕方がない。

だが、卓真のやり切れない思いも分かるが、それでもお客やライブハウスにその気持ちを暴力でぶつける事は決してやってはいけない。ファンを傷つけるなどタブーだ。

薫季は拳を握りしめて、何処へやったらいいのか分からない怒りを抱え込むように振るわせた。


「タキ、光!俺たちは抜けよう」

「え……?」


今度は秋司が独り言を言ったのかと思った。

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