SOUND・BOND
薫季と秋司より年上で、普段子どもの様に元気だから外見も含めて一番年下のように思ってしまう彼だが、急に大人になっちゃってと、今のこの状況ではやし立てる人間はいまい。
それよりも、光の言葉に突き動かされた薫季は、今自分が望んでいることをはっきり知ることができた。
こんなところで遊んで終わるために歌を始めたんじゃない!あの開放感に溢れる快感をもっと楽しみ、それをたくさんの人にも聴いて楽しんでもらいたい。そんな思いで高校を卒業して家を出たんだ。もっともっと高いところまで行きたい!
そんな思いが薫季を動かした。
「AKI!俺も一緒に行く」
と、意気込んで言ったら、秋司は、
「当ったり前だろ?お前がいなきゃ始まんねえよ」
と、さも当然のように笑って返してくる。それに対して薫季、光も揃って口端を持ち上げた。
ようやくいつもの空気が戻ってきた。
進むべき道が決まった。初めから決まっていたことなのかもしれないが、やっとまた自由に動き出すことに決心がついて満足している。
その時だ…
ガタンっ!!
薫季だけでなく、秋司も光も笑みを消してその代わりに驚いた顔を音のした方へ向ける。と、そこには卓真が立ち尽くし、ガラスの張られた赤い扉へと歩き始めたところだった。
彼がいたところには椅子がひとつ後ろへと転がっていた。それはさっきまで卓が真使っていたものだ。