SOUND・BOND
「そんじゃあ!どっか食べにでも行きますか」
秋司のいつもの落ち着いた声に、歩いてもいないのに躓(ツマズ)きそうになる。
「タキ?どうした……?」
体を揺らした薫季に秋司は怪訝(ケゲン)そうに聞いて来る。
「い、いや、何でもない……」
この場面で食べに行くという発想は彼らしいといえばらしいが、どう考えてもここは練習をするべきだろうと思う。スタジオまで借りてしまっているのだから。それに、落ち着いた声音でそれを言われたのが躓きそうになった原因でもある。
「また3人に戻ったんだから個人練習した方がいいんじゃないのか?スタジオだって……」
借りてあるのにと、最後まで言う前に、
「だからこそだろ?新たな旅立ち祈願と、今後の活動の打ち合わせを兼ねて飯食いに行くんだよ!スタジオなんて気にすんな」
と軽く受け流された。そこへ光までも便乗する。
「腹が減っては戦はできぬ!――あそこの角の店が良かったかなぁ。僕のオススメ!」
この人速攻食べに行く気だ。もう入る店までリサーチしている。完璧にもとの無邪気な光に戻っていた。薫季は泣く泣く頷くしかなかった。
「いいです。もうどうにでもしてください……」
そう吐き捨てるも、薫季だって彼らの気持ちは充分分かり切っていた。
冷めた空気の余韻の残るこの場で練習などしても身が入るはずもない。適当にやっても効果は得られない。それを秋司は分かっていたから外へ出ようと言ったのだ。もちろん光も同様だと思う。
それに、彼らがお腹に手を当てているところを見ると相当腹の虫が鳴っているのだろうし――。
薫季は秘かに微苦笑して見つかる前に口元を引き締めた。