SOUND・BOND
1-Ⅲ
「今日は助かった。これ謝礼な。また何かあったら頼むぜ」
リーダーは汗を真新しいタオルで拭いながらひとつの茶封筒を、長いソフトケースを背負う陸燈に差し出した。
それを遠慮なく受け取り、それじゃあ、とだけ言葉を交わして陸燈は控え室から抜け出す。
演奏は30分程で終わり、その後すぐに打ち上げをするから来いよと誘われたがいつも通り断った。どうせこのバンドの追っかけとやらもついてくるのだろう。大勢でわいわいするのは気が引ける。だからいつも貰う物だけ貰ったらバンドハウスを直ぐに離れるようにしている。
しかし追っかけはバイクに戻るまでの道中しつこくまとわりついてきていた。陸燈本人も気付かないうちにファンは彼にもついていたのだ。
なぜ自分に興味など持てるのかと、陸燈はやはり不思議に思えて仕方なかった
思い当たることといえばやはりこの赤い髪だ。他に興味の持たれるものなど持ち合わせてはいないはずだ。と、陸燈は思い込んでいる。
中からついてきた追っかけ以外にも、外で待ち伏せしていたと思われる女の子たちを見るたびに、少し赤が見え隠れする色素の薄い瞳は細められ、形良く引き締まった端麗な口元はありありと迷惑だと言いたげに歪む。そんな表情でさえファンにとっては魅力的に感じてしまうのだ。
とは言え、今も入り口を出たり入ったりしてこっちの様子を窺っている高校生くらいの2人組の女の子がいるが、直接声をかけてくる様子はない。
ただ周りで控えめにきゃあきゃあ騒ぐだけで接触しようとしないのは、陸燈が人を近づけさせない結界を張っているからだ。
結界といっても超能力や魔法などといったオカルトめいたものでは勿論なく、その人が自然に持つ雰囲気、イメージのことをさす。