SOUND・BOND
「彼、今日出るって言ってたよねぇ?」
「ああ。情報が正しければそのはずだけど」
今日は店内がやけに浮付いている。誰かを待ちこがれているような会話があちらこちらで交わされているのがわかる。
立ち見客も多く熱気がこもっていていつもと違う雰囲気を感じながら、陸燈は壁際を通って客席の死角になるステージの袖へ向かう。
今は少し年のいった、いわゆるおやじバンドがステージに上がってはいるが、それを真剣に聴き入っている客は少なく殆どが何かを待ち望んでいるといった期待感に溢れていた。
だが、陸燈にはそんな雰囲気は気にするに値しない。客が何に浮き足立っていようとどうでもよかった。自分はただいつも通りに演奏するだけだと、無意識に自分自身に言い聞かせていた。
ステージの直ぐ横に備え付けられた控え室へ入ると、今まで暗い所にいたせいか一瞬部屋の明るさに目が眩んだ。
中には出番待ちをしているバンドが数組見受けられた。それぞれリーダーを中心に演奏曲の確認をしていたようだが、陸燈が入って来たとたん皆が揃って話しを止め、顔を向けてきた。
驚くやつもいれば冷たい目を寄こすやつもいる。それは毎回のことで、何をそんなに気にしているのかと考えるのも面倒になり、今では気付かない素振りで辺りを見回す。
「お!やっと来たか。こっちだこっち!」
ステージから一番離れた一角で、こっちに向けて手を上げる男がいる。
そこには他に3人のメンバーが揃っていてずっと陸燈が来るのを待っていたようだ。他のバンドには見向きもせずにそっちへ歩き出すと、周りの視線が一緒についてくるのが分かった。鬱陶(ウットウ)しいがこれも無視する。