SOUND・BOND
陸燈は横目で辺りを見る。が、決して追っかけには目など合わせず、いかにも気にしていなく、もっと言えばその人間に気付いていない素振りでバイクへ近づきヘルメットを手にする。
エンジンをかけ、自分の身をSSに委(ユダ)ねて騒音を立てながら走り出す。
陸燈の遠ざかる後ろ姿にファンの女の子たちのガッカリした悲鳴のようなものが漏れるが、そんな声はバイクのエンジン音にかき消されて陸燈の耳には届きはしなかった。
決められたスペースに愛車を停めて、陸燈はヘルメットを外すとおもむろに溜め息を漏らす。
それはライブや追っかけに疲れただけが理由ではなく、少し薄暗い光に灯されたマンションの入り口に、良く知った顔を見たからだ。
向こうは嬉しそうに笑みを溢したようだが、陸燈は半分呆(アキ)れたように肩を竦(スク)めて見せた。
国道を走る車のスキール音が遠くから聞こえるが、住宅街であるこっち側に入ってしまえばそれほど気にはならない。
昼間は多少残暑も感じるが、夜はしっかり秋の訪れを知らせる風が吹いていた。
そんな夜更けにこんな所に立っている人間も珍しいが、彼女の場合はそれが当たり前の日課になりつつあった。
女の子が夜中に一人で外に出ることを良く思わない父親もいる。陸燈は半分それで、もう半分は自分なんかを待つ必要はないと思っている。
もちろん親子という関係では断じて無い。この歳で子持ちはないだろうと陸燈だって想像もしていない。強いて言えば兄妹という関係だ。
だが、周りからは今まで一度もそういう目で見られたことはない。
陸燈のウェーブがかった癖のある赤い髪と、瞳に時折写るアルマンディン・ガーネットのような赤は、この少女にはまったく存在しないからだ。