SOUND・BOND
今は襟元や袖、裾にレースの付いた真っ白な洋服を着ている。少し体に沿って皺ができているところを見るとどうやら着替えたのではなく、上を脱ぎ去っただけのようだ。
身軽になったからなのかどことなく体を弾ませて駆けて来る真空の手には白い紙が2枚大事そうに握られていた。体が気持ち弾んでいるのは厚いシャツを脱いだからだけではなかろう。
いつもと違う妹の様子に陸燈は暫し何も言わずに様子を見る。
真空はちょこんと隣に座り、嬉しそうに持っていた紙を1枚差し出してきた。
そして彼女も何も言わずにただ何かも待ち望んでいるかのような眼差しで陸燈の顔を窺っている。
その理由は陸燈には直ぐに分かった。
しっかり4つに折られた紙を開くと、4年2組甲斐澤真空とまるっこい癖字で書かれた、算数のテスト用紙だと明らかになった。
名前の右端には赤で100の数字が書かれている。おまけにその上には花丸が描かれていて、それは少し名前の上に重なっていた。
真空が何かを期待して食い入るように陸燈を見ているのは、この100点という最高の出来を認めてほしいからだった。
大きな瞳がまだかまだかと期待に揺れている。
それを焦らすつもりはないが、陸燈は答案用紙を最後まで眺める。所々筆算した跡や図を描いた跡が消しゴムをかけられても残っていて、彼女が懸命に答えを導き出そうと努力した様子が滲み出ていた。
そして陸燈はそっと妹の頭を撫でてやる。
「頑張ったな」
その言葉を待ってましたと言わんばかりに、真空は頬をピンクに染めて陸燈に跳びついた。
こんな光景が本当の兄妹にあるのかは陸燈には分からない。
ただ自分は真空の兄であり保護者でもある。そう自覚しているだけに接し方が兄妹の域を超えてしまうのは否めない。