SOUND・BOND
今までもこの内容の手紙を渡されたことはあったが、一度も受け入れたことはない。授業参観を代理で兄弟が出席することについては何の問題も無いだろう。
それでも陸燈には参加できない理由がある。
「真空。前にも言ったけど、俺は学校には行けないよ」
陸燈の言葉に可愛らしい小さな顔が困惑に歪む。
そんな顔をさせたくは無い。出来ることならもっと幸せな表情をさせてやりたい。
100点満点の答案を褒めた時の和んだ空気は一気に冷めていくのが感じられた。そうさせたのは、今ここにいない父と真空の母親、そして自分自身だと陸燈は重く実感している。
この外見でなければ――
そして少しでも真空と同じ血が流れていたのならと……。
こんな自分が行くわけにはいかない。本当に兄妹なのかとクラスの連中に真空が嫌な思いをさせられないとも限らない。
それ以前に両親がいないことを良く思わず、可愛そうだと哀れに思う生徒や親もいるだろう。
わざわざ自分が行って風当たりを強くすることは絶対に出来ないと、陸燈は自分に歯痒さを感じる。
「お兄ちゃん……。そんな顔しないで……」
そんな顔と言われて初めて気がついた。
真空の困惑顔は授業参観に出席するしないに向けられたものではなく、陸燈の苦に歪んだ今にも泣きそうな表情を悲しんでいるものだったのだ。
自分がそんな顔をしていたことにも気付いていなかった。
真空の暖かい手が陸燈の頬に触れる。
その手からは部屋が暖かいだけではなく、真空自身の温かさも十分伝わってきていた。