SOUND・BOND
出来ることなら自分だけの力で妹を守っていきたいと陸燈は思っている。だが、当時中学生だった陸燈には、このお金を使う他に道は無かったのも事実。気持ちだけでは自分すら守っていくことも出来ない。
それでも今は18。高校は今後のことを考えて色んな知識を身につけるために都内でも偏差値の一番高い学校に1年だけ通ってはいたが、2年目からはバイト三昧で殆ど行かなくなった。それでも陸燈には十分役に立った1年間だったと認識している。
自慢ではないが、頭の良さは弁護士、司法試験に受かるくらいのレベルだろうと陸燈自身自覚していた。それを口に出して言うほど自惚れていなければ過信してもいない。
真空を守りながら生きていくにはこれくらいでなければならないと思っているだけだ。
今の真空が泣く訳は、授業参観のことや自分が友達に苛められることを恐れてではない。
陸燈が頑張ってきたことを自ら否定するような顔をしないでという精一杯の訴えかけだったのだ。
まだまだ子どもだと思っていたのに、この小さな体には入りきらないほどの優しさや強さが抱(いだ)かれている。
陸燈は自分が馬鹿者であったことを今になって気付いた。それとも、もう随分前から知っていて気付かないふりをしていただけなのかもしれない。
それでもそのことに気付かせてくれたのは自分より8歳も下の少女だ。
(天才と馬鹿は紙一重、か……)
確かにそうだと陸燈は軽く吹き出す。
「お兄ちゃん……?」
陸燈の突然の苦笑に真空は驚いた様子で泣くのを止めた。
そんな彼女に陸燈も一呼吸置いて、自分にも言い聞かせるように口を開いた。
「分かった。俺も腹を据えよう」
言っている意味が分からないのか、真空はきょとんとして首を傾げる。
?マークの飛び交う少女の頭を陸燈はポンと掌で押さえ、
「授業参観、行ってやるよ」
と、今度ははっきりと言ってやる。
真空はその言葉が信じられないのか、自分の耳を疑うように、え?え?と繰り返した。大きな瞳がいっぱいに開かれる。
「口から出任せ……?」
それを本気で言っているのかそうでないのか真空本人も分かっていないようだ。