SOUND・BOND
小さな口から漏れた言葉に、陸燈は一瞬驚いた後、口元を嫌味っぽく持ち上げて、
「おいコラッ。人が折角決心したことを真空さんはいい加減に言ったと思っているのかい?それに一体何処でそんな言葉を覚えたんだ?」
まだ涙の跡が幾筋も残っているピンク色の頬を、がばっと両手で包み込んでグイグイと円を描くように回してやる。可愛い顔が引っ張られては歪んで戻る。
「ごめんなふぁいぃぃ」
目頭に残っていた涙が、顔の肉をいじられたことでひと筋零れて陸燈の指を濡らした。
謝りながら笑って泣いている不思議な顔に、陸燈は可笑しいのを堪え切れずに笑い出していた。
ようやく陸燈の手から開放されると、真空は自分の頬を擦りながら、酷いよぉと文句を言いながらも楽しげに笑い出す。
落ち着きを取り戻すのに時間はそうかからず、陸燈は真空を自分の隣へきちんと座るように言い、再びプリントに目を通す。
今回の授業参観は来月の第4土曜日。特別参観らしく、クラス交流を深めるために授業の後は紅葉見給食に午後はスポーツ大会が催されるようだ。そして月曜日が振替休校――
ここでようやく理解できた。どおりで、いつもは気にかけない授業参観を今回熱心に説得してきたはずだと――
「真空……。お前兄ちゃんを嵌(ハ)めたな?」
「え?」
今は顔も洗ってくっきり付いていた涙の跡も消えている。少し目元が赤みを帯びてはいるがそう目立つほどではない。
ぽかんと口を開けている妹の顔を数秒見つめてから――確認しようと思っていたことをここで止めることにした。
大泣きした理由はもう分かったし、例え懇願してきた理由が一緒にお外で給食食べて、一緒にスポーツを楽しみたいという己の欲望であったとしても!……自分のために涙を流してくれたのは事実だから。
それに、こういった催しは殆どの親がはりきって参加することだろう。今まで運動会すら弁当を持たせるだけで見に行ってやらなかった真空の寂しい気持ちを考えたら、少しくらい騙(ダマ)されたって構わない。
そもそも真空は騙したなんてこれっぽっちも思ってはいないようだが……。