SOUND・BOND
「さっすが陸燈!人気者だな」
「野郎どものあっつい視線に注がれて」
このバンドのリーダーと、ギターを持った男が話しかけてきた。
前に一度、ライブの打ち合わせと練習で顔を合わせただけのバンドだ。全く名前も覚えていなければリーダー以外の奴の顔もうろ覚え。この先も覚えるつもりは全く無い。どうせ今夜限りのバンド。覚えても仕方がないのだ。ただギターを楽しめればそれでいい。
だが、相手はしっかり陸燈のことを知っている。
「今回はあいつが休んでくれてラッキーだったよな。陸燈が出ると盛り上がるしファンも増える」
仲間である人間が休んだからといって、それを残念がるどころか手放しで喜んでいる彼らを、陸燈は意味ありげに一回瞬きして彼らを見据える。
こんなバンド、直ぐに終わる(解散)だろう、と。
「でもそれって陸燈のみだろ?意味無いじゃん」
「意味は無くないぞ。甲斐澤陸燈が出たバンドは必ず成功するって言うんだ!明日にはプロデビューかもよ」
メンバー内でいい加減な話が飛び交い盛り上がる。陸燈が出れば成功するなどという都合のいい話があるはずがない。一体何処からそんな噂が流れたのかと陸燈は不思議に思い呆(アキ)れもした。彼らの考えには到底ついていけない。ついていこうとも思わない。
「陸燈、リハーサル出なかったけど大丈夫か?一回きりの練習だけで」
いつも初めて参加するバンドにはこの質問をされる。
「俺にはあれだけで十分ですよ」
と素っ気無く答えてやる。