SOUND・BOND
何かが気に入らなくて泣いている真空に、聞こえる場所からギターの音を出してやると、面白いように泣き止み側へやって来てはずっと眺めていた。
不思議に思ったのが、他の人間がギターを弾いても見向きもしないということだった。テレビの音楽番組でギターの演奏が流れても、全く興味無さそうに自分の遊びに夢中になっていた。
試しに陸燈は音を出し真空を引き付ける。そして弾くのを止めてそのギターを少女に近付けてみた。楽器に興味があるのなら弾きたがるはずだと思ったからだ。しかしその予想は思いっきり外れていた。
少しも触ろうとしない真空は、ただただ弾いて弾いてとせがむばかりで自ら弾こうとはしなかった。
義理の妹である真空は陸燈が奏でるギターのみを好んでいたことになる。
それは随分昔の記憶で、今そのことについて触れようとは思わない。真空もきっと、なぜ陸燈のギターだけに興味も持っていたのかなんて幼すぎて記憶に残ってはいないだろう。
陸燈のバイトには、あのゲストライブも含まれている。他にも2つほどやってはいるが、どれも土日は休みを貰うようにしていた。それは小学校に上がったばかりの真空を、休みに一人家にいさせるのが心配だったからだ。
親がいないというのは、まだ甘えたい盛りの真空にとっては精神的に不安定にさせることも珍しくはなかった。頼れる大人もいなければ、言葉をろくに口にしなかった真空は友達も少なかった。
だから陸燈は兄兼親代わりとなり真空を頼らせた。少女もそれ以外に道は無いと知らずとも感じていたのだろう。
そんな中、何かひとつでも楽しみに出来ることがないかと考えたのが野外ライブだった。
昼間は周りの音が煩(ウル)さすぎて演奏は出来ない。だから夜にやるしかなかったため、バイトの無い土日で夜更しして寝坊しても大丈夫なように次の日学校のない土曜日に消去法で決まった。