SOUND・BOND
STORM(ストーム)を抜けたのが丁度一ヶ月前。
あれから薫季たちは、バイトに励んで東京に移るための資金稼ぎと準備に明け暮れた。
もちろん合間を見て練習にも余韻は無かったが、優先されたのは東京で活動していくための準備だった。
地元の函館にとどまっていて一体いつプロのミュージシャンになれるのか。正直自信がなかった。だから、東京に出ようという秋司の意見に賛成して今ここにいるのだ。
それでも、アパート探しにはほとほと困ったものだった。わざわざこっちに出てきて探すなんて資金の余裕があるはずも無い。
電話交渉でも、やはり現物を見て決めたいと思って途中で諦めた。
そんな時、光が救いの手を差し伸べたのだ。
実家が東京にある彼は、家も広くて使っていない部屋がいくつかある。と、どこか自慢げに話していた。しかし、薫季はそんなこと気にするどころか、居候(イソウロウ)させてもらえることが有り難くて頭が上がらなかった。
薫季と凪秋司が転がり込むことで、光は準備も兼(カ)ねて実家に一度戻っていた。
そのことの申し訳なさが今でも継続している。
「何?気にしてたのか?タキは優しいなぁ♪」
気持ちを読み取ったかのように、光は小柄ながらも豪快に笑い出す。本人は大人を気取っているつもりなのだろうが、傍(ハタ)から見れば子どもが見栄を張っているようにしか見えない。
それが可笑しくてついつい笑ってしまうが、本人はそれでいいのだと思っているのだから放っておくことにしている。
秘かに、可愛いのだから止めさせる必要も無い、と思っていることはもちろんヒミツだ。