SOUND・BOND


「どうした?光」


薫季は訊いてみる。


「僕今晩行けないや……。こっちの友達と会う約束してるから」


さっきまでのテンションとは豪く違う。

落ちるところまで落ちたといった感じで、何も持たない両手を前でだらりとぶらぶらさせている。

ルソワールに行けないことがそこまで落ち込むことなのだろうか?


「まあそんな落ち込むなよ。これから何度でも行けるんだし、あそこでライブだってやることになるかもしれないだろ?」


この東京にいる限り何度でも足を運べるところだ。一度行けないからといってガッカリすることはない。

元気付けたつもりだったのだが、光は少し外れたところで肩を落ちしていた。


「ここに来て初めての仲間探しに参加出来ないなんて、ショックも富士山級だよ……」


そこまでガッカリしているのに、日本一の山で終わらせてしまって良いものなのかどうか、疑問が残るところだが……。

取り敢えず、気を引きたいのだろう光の言動はよそに放り、それと引き換えにこのチャンスを逃す手はないだろうと考え、光を放置したまま今夜の予定は決定した。

タクシーの中でも彼は落ち込んでいた。勝手にメンバー探しに行ってしまうことは申し訳ないと思い、秋司と相談してご飯を奢ることを持ちかけると……。
にやり。

エベレスト級の(こ憎たらしい)笑みが返ってきた。


(やられたか……)


これが狙いだったのかと、疑いたくなるような笑顔だった。


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