SOUND・BOND
前までは録音されたCDを聴いて楽譜を見て、後はアドリブで全てこなしてきた。もちろん練習など一回も出ずにぶっつけ本番。全て成功している。だが今では不安がる連中や本当に音合わせしなくて大丈夫かとしつこく聞いて来るバンドが鬱陶しくなったから一度は練習に出るようにしている。
「まあ、お前なら大丈夫か。期待してるぜ」
リーダーに軽く肩を叩かれる。
「期待してるのはあんたたちだけじゃない。こっちはゲスト代を待ってる」
頼まれたバンド全てを引き受けているわけじゃない。必ずどれだけのものをくれるのか品定めしてから決める。もちろんどっちも選ばない場合もある。そのせいなのか、ずっと周りから刺さるような視線を向けられているのは、何処かでバンド出演を断ったことがあるからだろう。まあ気にしたところでどうこうなるものでもないが。
「分かってるって。その代わりいい演奏してくれよ?大体助っ人で金稼ぎしてるのお前くらいだぜ。普通は実力が無ければそんなこと不可能だ。いや、実力があってもそれ以上に存在感がなけりゃ駄目だな」
陸燈自身、自分にそれほどの存在感があるとは思っていない。ただギターだけは誰にも負けないと思っているだけだ。
まああるとすればこの頭くらいかと、陸燈は赤く染まる髪を前からくしゃっと掴んだ。
これを持って生まれてきたことで、周りから色々言われては惨めな思いをすることはあっても、良かったと思えることなどこれっぽっちも有りはしなかった。
そんな周りの声が鬱陶しくて染めることも考えたが、惨めだから隠してるんだ、後ろめたいから染めてるんだ、なんて思われるのも癪(シャク)だと思い意地でもこのままでい続けた。