SOUND・BOND

何のためにこっちに出てきたのか忘れたわけではない。やはり優先すべきなのはバンドのこと。完璧なバンドとはメンバーが揃(ソロ)わなければ成り立たないし始まらない。

薫季は秋司へ、そして自分にもしっかりやろう、と言い聞かせるために頷いた。


「ところで光は何時頃出るんだ?」


今はもう夕方の6時。薄っすらと太陽が余韻を残して空が赤く、東にいくにつれ暗さが増している。

着いた時にはもうしっかりカーテンは閉まっていたから時間の経過に気付かなかったが、部屋の机に置かれた時計はすっかり日が暮れていることを告げていた。


「やっべ!もう行かないと」


秋司の質問に答えるために時計を見るなり、光は慌てて部屋から飛び出していく。

彼がそのまま飛び込んだ場所はどうやら自室のようだ。

上着を肩に引っ掛けながら出てくると、


「AKIたちは7時からだったっけ?今度ちゃんと飯奢れよな」


と、こっちが忘れていると思ったのかそれとも忘れさせてなるものかと思ってか、しっかり釘を刺しながら、まともに返事を聞こうと思っているのか分からない速さで廊下を駆け抜けていく。


「ああ。しっかり聴いてくるからそっちも楽しんでこいよ!」

「慌てるとこけるぞ~」


と階段を駆け下りる彼に薫季は冗談半分で注意すると、下の方で何かを打ち付ける音と、
それに続いて、あうっ、と光の呻く声が返ってきた。


(遅かったか……)


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