SOUND・BOND
その時は正直面食らったものだ。10歳の少女が的を射たことを、こうもすんなり口にしたのだから。いや、子どもだからこそなのかもしれない。
閉じ込めるという辺りが子どもっぽさを引き立てていたが、人間のマイナスエネルギーを、陰陽道でいう撫物や人形(ひとがた)といったものに封じ込め身代わりになってもらうというものがある。
もちろんそんなマニアック的なことは彼女の頭にはない。無いが、無意識のうちにそれと同じことを思いつき行動に移したのだから、驚く他に何が出来よう。一方陸燈もそこまで考えていたわけではないが、理屈は理解していたからこうも胸を打たれたのだ。
それでもまだ9歳の子どもなのだからと、泣いた覚えはないぞ?と少しからかう気持ちで言うと、
「だって、あのとき涙は出てなかったけど、泣いてたでしょ?」
と、けろっと言ってのけたのだ。
また圧倒させられた。
あの時というのは、あの一ヶ月前の金曜日の夜のことだ。確かに、辛い記憶が蘇えり気持ちがぐんと沈んでしまったことはあった。
それがこの子には泣いていたように映ったのだろう。
「真空には敵わないな」
まだ腰に腕をまわしてしがみついている妹に、降参の言葉を投げかけると、彼女はニッと笑って勝ち誇る。
「そうでしょう、そうでしょう」
「お前なぁ」
ふざけて笑い出す真空に、陸燈も釣られて笑みを溢す。
今日は授業参観の日だった。真空の学校での生活を見られて良かったと思う。家では見られない妹の姿がそこにはあった。
もちろん最初は他人の注目する嫌な視線が注がれるのが怖かった。それでも、少しでも心の闇が取れるのならと、妹だけを見ていれば大丈夫だと決めて行った。