SOUND・BOND
「うわ~!暗いね~。人もいっぱいいるよぉ」
「真空。しっかりついて来ないと逸れるぞ」
ルソワールのあの薄暗い階段を下りて行く途中から、好奇心を抑え切れずにはしゃぐ妹を振り返りながら、陸燈は彼女の歩幅に合わせて歩く。
一本道の階段では迷いようもないが、下り切って扉を開くと相変わらずの混み様で、小さな4年生である真空が中に入り込んだら姿など見えず、見つけるに苦労することだろう。
その上バンド演奏が始まればどんなに呼び叫ぼうとも、その声はかき消されてしまう。
だから、いくら狭いここでも、身動きもままならないこの状態では、逸れるなと言わざるを得ないのだ。
今でも演奏が始まっていて皆、興奮状態にある。
そんな中をいつもどおり壁伝いに進む。
後ろから逸れまいとついて来ている妹の手を引きながら。
「お兄ちゃん、何処行くの?」
背後で真空が訊ねる。
陸燈は後ろを振り返り、少し屈んで、
「この奥にある控え室だよ」
と告げてから再び歩き出す。
そして数歩進んでから、ふと繋(ツナ)いでいる手が後ろへ引かれた。
もちろん引いたのは真空の小さな手だ。
一体どうしたのかとまた後ろを振り返ると、
「私、ここで見たい」
「ここで?」
彼女はぴたりと立ち止まった。
陸燈は少し眉を顰める。