SOUND・BOND
2-Ⅲ
森の木を切り倒してそれを適当な長さに切断し、縦に真っ二つにした内側を背にしたような看板。
その外側の木の皮を「Le soir」という文字に剃り落とされて黒く塗り潰された、シンプル且つ洒落た作り。
そこへライトアップされると、大人の店といった魅力的な雰囲気をかもし出す。
3年前とちっとも変わらない外観に、どことなく安心感を覚える。
やっぱりこうでなくてはと、うんうん頷いていると、
「おい、タキ。そんなとこでボーっとしてるなよ、おいてくぞ」
その看板の下で秋司が呼ぶ。
少しくらい感傷に浸っても罰は当たらないだろうにと思うが、時刻が7時数分前だと告げられると、薫季も慌てて足を速めた。
この狭い階段も懐かしい。
正直、この古めかしいライブハウスが今も健在していることが不思議に思えた。
とはいえ、決して潰れればいいなどと思っていたわけではない。もちろん無くなるだろうと予期していたわけでもないが、ただ、3年前に戻った感じがして、自分がまたここにいることがおかしく感じたからなのかもしれない。
それは薫季自身にもはっきりとは分からないが、ここが真爪光と出逢った場所で、これから始まるかもしれないスタートラインだと思うと、嬉しくて仕方がないのだ。