SOUND・BOND
「なに笑ってんだ?」
「いやいや、別に」
振り返って訊ねる秋司に、薫季は秘密だという感じに笑ってごまかした。
それに秋司は口元を微かに持ち上げる。
薫季のつり上がった目は一見冷たく感じるが、笑んだ時は綺麗な鼻筋によく馴染み、目が離せなくなる。
「タキの武器だな」
「え?何か言った?」
「なんも~」
確かに何か言われたはずだと薫季は気になったが、歩く速度を上げる彼に遅れないようにしなくてはと思い、いつの間にか疑問は頭から消えていた。
そして中へ足を踏み入れる。
「なんだ、これ!」
先頭を行っていた秋司が真っ先に声を上げた。
彼に続いて中を覗くと……。
凄い。
右も左も人の群れ。
立ち見客でほとんどステージが見えない状態だった。
「前より賑わってるな」
薫季も面食らいながら、女性客が多いことにも気付く。
しかし、今演奏しているバンドに注目しているようには見受けられない。