SOUND・BOND
もうひとつおかしなことは、ほとんどの若い女性客の手に携帯電話が握られているということ。
すぐ横を見ると、わざわざカメラまで持ってきている娘(こ)までいた。
「なんだろうな、ここ」
「さあ。大方、アイドルを見に来た熱狂的なファンの溜まり場ってとこじゃないか?」
と、秋司はこっちではなく違う方向を見ながら言った。
彼の視線を追っていくと、カウンターに二十歳前後の3人の女性がえらく騒いでいるのが目に入った。
もちろんその手には携帯電話がしっかり握られている。
「あの娘たちだ。空港でギタリストのこと教えてくれたの」
どおりで、ここにいる客が彼女たちと同じような雰囲気で浮かれているわけだ。
「なるほど、熱狂的なファンね……」
空港、ということはあの彼女たちは県外からこのために遥々やって来たということだ。
そこまで騒がれるギタリストとは一体どんな奴なのだろう。
薫季は益々胸が躍ってきた。それは隣にいるベーリストも同じのようだ。
伏せ目がちの落ち着いた感じのいつもの目が、今はどこか生き生きとしているように見える。その上口元まで綻ばせているから、端整な顔立ちが一層魅力を増していた。
「タキ、あれ」
彼を見ていたら急に表情が変わった。声を掛けられてその理由に気付く。
「あんな子どもまでいるぜ。範囲広いなあ」
カウンターに近い方の壁際辺りに、小学生くらいの子どもまで来ていた。