SOUND・BOND
この距離だと少し遠い上にそこは特に暗くてはっきりとは見えないが、ひらひらのスカートに黒い髪をツインテールにしていることから直ぐに少女だと分かった。
「それか誰かの連れじゃないのか?ほら、傍に誰かと話してる」
男。
背中にある長いケースは大きさや膨らみ具合からして、おそらくギターかベースが収まっているのだろう。
あの大きさでこんなところに持ってくる物といえばそれくらいだ。
この暗さでは顔までは確認できないが、
(赤い髪……)
暗くて黒くも見えるが、他とは違う赤みが差している。たぶん日の下に出ればしっかり赤だと認識できるだろう。
これが妙に目に付いて離れない感じがした。
その時、少女が動いた。
「あの子、一人で見るのかなあ」
赤い髪の男から離れていく少女を薫季は目で追う。
ここに来ている客に、他に小学生くらいの子どもは見受けられない。一人でいるのは心細かろう。
「なんだ、気になるのか?」
「いや、別にそういうわけじゃないけど」
ただなんとなく一般的な大人として心配になっただけだ。
彼は薫季がそれを過敏に感じてしまう性格のことを汲み取って訊いてきたのだろう。
言いながら男に視線を戻すと、客の一人と会話して直ぐに扉の向こうへ消えて行った。
「あっちは控え室だな」
秋司も男に目をやり、意味深な言葉を漏らした。
「AKI?」
「控え室、つまり演奏するために来たってことだ。そろそろ最終のバンドだからな、きっと直ぐに出てくる」
どうやら彼に魅入っていたのは薫季だけではなかったようだ。