SOUND・BOND

もちろん、彼には陸燈の皮肉な笑みの理由など知るはずもなく、頑張れよと後ろから声援まで送る始末。
 
きっと陸燈の笑みが皮肉のものだということにも気付いていないのだろう。
 
そのことにも笑えてきた。
 
カウンターの横を通り抜ける時、そこに取り付けられた時計に目をやると、丁度7時を指していた。
 
そろそろ今のバンドも終わるだろうと、足早に控え室に続く暗がりの通路を進む。
 
控え室の明かりに目が眩むのも我慢して覗くと、残っているのは案の定、陸燈が出演するバンド一組だけだった。
 
扉が開かれる音に、3人が一斉に視線を流す。


「陸燈!」

「良かった~。ぎりぎりだぞぉ」

「焦らせないでくれよ、陸燈!」
 

安堵の溜め息が部屋に漏れた。


「悪い。ちょっと用があって」
 

半分はあいつのせいだと、数秒会っただけのあの男のことを一瞬怨む。それは彼の言動がまだ頭に引っかかっていたからだ。


「まあいい。今のバンドがもう時期戻ってくるから、早いとこ準備してくれ」
 

このバンドのリーダーに急かされるまま、背中のソフトケースを降ろして愛用のエレキギターを手に取る。
 
そしてチューニングもそこそこに、早速出番がやってきた。

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