SOUND・BOND



「ここなら良く見えるよね」
 

陸燈と別れて直ぐのこと。
 
一人ごちながら、真空は辺りをきょろきょろ。
 
知った顔は誰一人としていない。当たり前なのだがやはり寂しく思う。
 
それでも大好きな兄をマじかで見るためならと、小さな胸に高鳴る心臓をきゅっと押さえて待ち焦がれる。
 
きっと誰よりも綺麗に映ってカッコいいんだろうなあと、体を軽く弾ませて少し高めのステージを見つめた。
 
左右の縛られた髪が右に左にひらひら揺れる。
 
今やっているバンドはただ煩いだけに少女には聞こえた。
 
早くお兄ちゃんのギターが聴きたい。大好きなあの音を。
 
そして、煩いだけに思うバンドの演奏が終わる。
 
丁度その時、真横から黒い影が真空の視界を掠めた。
 
何かなあと振り向きざま、いきなりドンッと体に何かがぶつかる衝撃が走った。


「きゃっ!」
 

足が縺れて視界が揺れる。一瞬何が起きたのか分からず、倒れる体を支える暇もなくそのまま尻餅をついた。
 
そのお尻と反射的に着いた右肘がじんじん痛む。
 
あまりの痛さに目に涙がにじんだ。
 
目元に手を持っていくと、袖口に付いたレース部分が少し汚れていることに気付き、ジーンと胸に違う痛みが染みた。


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