SOUND・BOND
真空は弱々しく息を吐く。
痺れるお尻を無事だった左手で擦りながら、押された方を見上げると、携帯電話を大事そうに握りしめた女の人がこっちを見据えていた。
冷たい目――
「ちょっと、どうしたの?」
冷たい目を向ける女の人の後ろから、彼女の友達らしいショートヘアーの新たな女の人
が、何があったのかと彼女に問いかけている。
「べっつにぃ。こいつがぶつかってきただけぇ」
「なになに?可愛いじゃん。陸燈のファンじゃないの?」
「こんな子どもがあ?冗談やめてよ」
見た目通りきつい物言いをする彼女は、声をかけてきた友達に笑って答える。
突然の会話に真空はついていけない。
ぶつかってきたのは明らかに向こうだ。なのに否定することを忘れて、ぽかんと口を開けてただただ見上げることしか出来ない。
「だいたい何でこんな子どもがここにいるわけぇ?陸燈がこんな子ども相手にするわけないのに、ちょっとは思い知れっての」
「やっぱりミチがやったんじゃん」
「だってこいつ、陸燈のことお兄ちゃんって呼んだんだよっ!全然似てないじゃん?マジで兄妹ならともかく、そんな嘘までついて彼の傍(ソバ)うろうろされちゃ目障(メザワ)りじゃん」
更に冷たい目が注がれる。
「子どもは大体大人にはそうやって呼ぶんだよ。これ以上は可哀想じゃん」
友達の言葉は、ミチという女の人より柔らかいが、嫌味っぽく笑う顔がそれを大きく裏切っていた。