SOUND・BOND

最低だと思った。
 
こんな人が兄のファンであることにも腹が立った。

――陸燈お兄ちゃんは真空のお兄ちゃんだもん!お兄ちゃんのギターの音だって真空のものだもん――
 
そう惜しみなく言えたなら――
 
でも人を好きになるのはその人の自由。
 
それが分かっているから真空は何も言えなかった。


「何とか言ったらあ?それともただ泣くだけ?」
 
我慢していたはずなのに……。
 
いつの間にか大きな瞳から熱いものが零れ流れていた。


(お兄ちゃん……陸燈お兄ちゃん……っ)
 

きゅっと目を瞑(ツム)って必死に涙を堪えながら呪文のように唱え続ける――
 
どうしよう、足に力が入らなくなってきた。
 
震えて立っていられない。
 
こんなことなら兄の言うことをちゃんと聞いてついて行けば良かった、と、後悔してもあとの祭り。
 
周りを見ても頼れる大人は一人もいない。
 
全ての人間がこの女の人たちのように敵に思えてきて、一層恐怖心を煽った。
 
そして、最後だというバンド紹介が始まり、ハウス内に兄の名前が響き渡った。
 
周りの観客はわーっと盛り上がり凄い熱気だ。今し方までちょっかいを出してきていた彼女ら2人も、玩具に興味が失せたといった感じでこっちには見向きもせず、今は陸燈という新しい玩具に興奮している。
 
真空も本当ならこの熱気に混じって胸躍らせているはずだった。
 
でも、こんな泣き顔では大好きな兄を直視できない。そしてこれを見た彼はきっと心配することだろう。
 
バンドの紹介が終わり、そろそろステージに出てくる。


(そうだ!後ろに……)
 

後ろに下がればきっとこんな自分の顔はステージからは見えないはず。

まだ震える足を無理に動かそうとする――


「あっ!」
 

捻った右足を庇いながら踏み出したせいで再び縺れる。
 
今度は後ろではなく前へ――


(転んじゃう……!)


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