SOUND・BOND
客席の方は暗くてあまり後ろの方は見えないが、いつも以上にそわそわと落ち着きのない人間の熱意のようなものが感じられた。
興奮状態にある客の数が、来た時よりも増えているように思う。
メンバーが陸燈を待っている。
(そろそろか)
暫し止めていた足を再び進ませる陸燈。
彼の姿を捉えた観客たち。
「キャー!!」
ライブハウスが悲鳴めいた歓声に染まる。
茜色の髪は上から降り注ぐオレンジ色のライトによって輝きを増し、そこから端麗な容姿にある瞳がアルマンディン・ガーネットに染まって覗く。
陸燈の魅力が一番発揮される場なのだが、彼自身まったくといっていいほど鈍感で気付かない。
自分自身は見えないのだから当然だという屁理屈にも至らないほどに。
しかし彼が自覚のないことなど、ここにいるファンにとってはなんの問題にもならない。
混乱を避けるために数分前、撮影禁止令が出たばかりだというのに、我慢できずにか、それともこの興奮で頭から綺麗さっぱり吹っ飛んでしまったからなのか、一度は閉まった携帯電話を再び手に取り出して撮影する。