SOUND・BOND
後ろにいてもこの高さならなんとかステージ上を見渡せる。
これで絡まれることはない。しかし、最前列に真空の姿がないと兄が知れば心配することだろう。
それだけが気がかりだった。
そしてバンド紹介が終わると、メンバーが順に姿を現す。最後に兄、陸燈が登場すると一気に場内が沸いた。
「やっぱりさっきの奴だ」
「あの髪の色はそういないからな」
秋司は頷きながら同意した。
「重要なのは腕だけどな」
と肝心なところを忘れずに。
真空は陸燈のギターを毎日聴いている。だからこの2人の会話を、なんだか誇らしげに聞いていた。
兄のギターを気に入らない人間がいるなどあり得ないと。
真空はステージの向かって右側に立つ陸燈を見つめる。
気付くと彼は、視線を自分の近い客席へ巡らせていた。何かを探すような面持ちで……。
(きっと真空を捜してるんだ……)
どうしようと思うが、身動きのままならない今の真空にはどうすることも出来ない。
(ごめんね…お兄ちゃん…)
演奏が始まると、活気立っていた客もリズムに合わせるようにまとまった歓声に変わる。