SOUND・BOND
出だしはドラムセットの中で、演奏者の一番手前にあるスネアドラムと右側に置かれたライドシンバルが静かに弾み、そして陸燈の流れるようなアルペジオが加わった、緩やかで落ち着いた音、メロディーが滑り出した。
一音一音正確に弾き出される陸燈のアルペジオは、場内の客をあっという間に虜(トリコ)にしてしまう。
あれだけ騒がしく賑わいでいた空気がぴたりと静寂を取り戻した。いや、新たに作り上げたと言うべきか。
そして、それを聴きながら体でリズムを刻んでいたボーカルが、顔を上げてしっかりマイクを握ったのが合図かのようにベースも流れ出し、陸燈がギター弦全てを使ったコード・ストロークに入った途端、曲のイメージが変わった。
激しく。
力強い。
体が勝手に動き出してしまうほどのノリのいいメロディーに。
もちろん場内は一気に熱が入り、狂ったかのように歓声が沸いた。
女性たちは手に握るカメラや携帯電話を構えることすら忘れて、バンド、というよりも陸燈に熱い眼差しを向けていた。
それを真空は誇らしく思うが、気持ちのどこかで落ち着かないものが芽生えたことに、静かに眉を顰める。
(真空の、お兄ちゃん……)
これが嫉妬心だということに自ら感じていても、はっきりそうだと確信するまでにはまだ至らない。
いつも自分だけに聴かせてくれるものやストリートライブとは違う。今この時の兄の姿や音は自分だけに向けられたものではないと、真空はひしひし感じて小さな拳を握った。