SOUND・BOND
聴かなくていいのかと訊かれれば、こんな場所へは滅多に連れて来てもらえないし、バンドに加わっての演奏は聴いたことがないから、聴きたいという気持ちの方が大きい。けれど、今はなんだか兄の姿を直視できない。
また、嫌な思いをしそうで怖かった。
(見ても、真空のためだけに弾いてるんじゃないから……)
「そっか、毎日弾いてもらってるのか。いいな」
「え?」
弾いてもらっている……?
きょとんとした顔を浮べる真空に薫季は続ける。
「だってそうでしょ?こうやって演奏するにはそれなりに練習しなければならない。まあ彼くらいのレベルなら簡単にこなしてしまうかもしれないけど、やっぱり何処かで苦労はしてるんだ。彼みたいなタイプは極力誰もいないところでするんだよ――な、AKI?」
話の内容もよく分からないが、突然相方に話題をふったことにも「?」である。
首を傾げる真空に、観念したかのように肩を竦めて秋司が続ける。
「そうだな、真空ちゃんの兄貴は俺と同じタンプかもな。ギターの腕はすでにプロ並みで、こうやってステージにも時折立っている」
相手を褒めながらも自分をも高く評価していることに彼は絶対気付いている。分かっている上で堂々とアピールしているのだ。
そこには最早触れまい。