SOUND・BOND
「いや、これは素通り出来る問題じゃない。今きっちり話をつけないとこの先俺たちは確実にステージに立てなくなる」
「タキの言うとおりだぜ?これで何件のライブハウスが出入り禁止になったか、分かって言ってるのか?」
「そんなの大丈夫だって!ライブなら野外でも出来っだろ?なあ?卓」
金色に染まった短い髪をワックスで逆立て、そのお陰で耳に通った5つものピアスがよく目立っているギターの黒井翔(くろいしょう)が、もう一人のギターでこのバンドのリーダーである(ピアスは開けているが見た目は翔ほど派手ではない)宇崎卓真(うざきたくま)に軽い調子で同意を求める。
「そうそう。気にしたってしょうがねえよ」
リーダーの意見には従わないとな、と言うように翔はこの彼の言葉に笑って賛同した。
だが、そんな意見に楽しく笑ってなどいられないのが他3名。
「たとえ外に出て演奏出来たとしても、こんな暴力バンドを見に来る客がいると思うか?」
「それに最近じゃ、名前どおりのバンドだって言われてるんだ。これがプレイでのことなら嬉しいさ。でも、ライブハウス荒らしみたいな意味での異名じゃあショックもでかい」
さっきからリーダーの卓真と翔に対抗し、バンドのことを心配しているのは、ボーカルの桐坂薫季(きりさかたき)。
ショートのまばらに切られた髪に、少しつり上がった目と綺麗な鼻筋の通った顔立ち。いかにも我が強そうな印象を与えるが、よく通る声と見た目に反した冷静な物腰が彼のイメージを美麗な方向へとさらっていっていた。
そんな彼に同意見の上、現実を突きつけるような言葉を吐くのは、左目にかかる少し長めの髪を払う仕草をするベースの凪秋司(なぎしゅうじ)。
真正面から見れば薫季より少し長めのショートヘアーだが、少し角度を変えてみれば裾の辺りを縛った長い髪が後ろに覗き、大人びた彼に多少崩した印象を与えている。そしてまた、伏せ目がちの目だが、映える顔立ちの彼にはかえって落ち着いた雰囲気をも引き立てた。
リーダーがなんと言おうと、この2人はこの現状に歯を食い縛って黙っていられるほど落ちぶれちゃいない。