SOUND・BOND

コホンっ。とひとつ咳払いして薫季が続ける。


「まあAKIが言ったことは大体合っているけど、あえて流してくれて構わないから」
 

隣から、僅かに笑いが漏れる。
 
秋司本人も遊び心で言ったのだと認めている反応だ。


「名前、陸燈って言ったっけ?彼のギターならプロとしてやっていくことも可能なのに、ここで燻(くすぶ)っている。彼の腕は才能だけに恵まれたわけじゃなく、たくさん努力した結果なんだ。たぶん学生だよな?あの若さでここまでの腕になるには相当ギターに入れ込んでいなければ無理だ。だからプロになりたくないわけがない。それでもならないのは、他に大切なものがあるから」
 

多分学生かという疑問は、光という惑わしの前例があったため少々慎重になっている。
 
しかし今回は小学生の妹がいるということから、二十歳以上であるという考えは簡単に捨てられた。


「大切なものって……?」
 

兄の大切なものとは一体……。


「ま、分からないなら分からないでいいんだ。真空ちゃんがそのままでいればな」
 

と、秋司が軽く片目を閉じて言った。
 
彼のウインクの意味はよく分からなかったけれど、なんとなく元気付けてくれたのだと思った。


(いつか話してくれるよね、お兄ちゃん……)


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