SOUND・BOND
真っ直ぐ裏口に向かったのなら今頃ベンチで待っているはずだ。
「有難う!マスター」
陸燈は自分で確かめるより早く確信を得られてホッと胸を撫で下ろした。
今でも注がれている熱い視線のことなどすっかり忘れて、裏口へと足早に向かう。
オレンジ色に照らされた一枚の扉を押し開け、一本の通路に出る。
「真空!」
出て直ぐのところにベンチが2つ並んでいて、扉から一番遠い方のベンチに真空の姿があった。
人目があるわけでもないのに、少女はきちんと足を揃えて行儀良く座っている。その姿勢のままで顔だけをこっちに向けた。
「お兄ちゃん!」
少女は自分の名前を呼ばれて嬉しそうに立ち上がる。
しかし、どこかおかしい……?ぎこちない立ち方に陸燈は訊かずにはいられない。
「足、どうかしたのか?」
すると、真空は少し笑みを崩し、ばつの悪そうな表情を浮べた。
「えっとね……。ち、ちょっと転んだだけだよ?」
それが嘘だとすぐに分かる。笑みの中に苦の感情が混ざっていたから。
彼女自身も簡単に見抜かれることだろうと思っているのだろうに、隠したがるのは何か言いにくい訳があるはずだ。
「兄ちゃんには教えられないことなのか?」
「え?……だから、転んだだけだよぉ。人いっぱいいた、から……」
段々か細くなる言い訳に、陸燈はひとつ息を吐く。
そして、肩に掛けていたギターケースを床に置きながらしゃがみこんで、真空の顔を下から覗き込む。
明らかに動揺している妹を静かに見据えて、
「この袖口、レースが汚れてる。それからスカートの裾も。確かに転んだんだろうけど、その理由は人がいっぱいいたからじゃないだろ?」
真空の汚れた右手を取って、陸燈は問いただすが――