SOUND・BOND



お目当ての演奏が終了すると、

『本日の演奏はこれで全て終わりました。閉店しますので速やかにお帰り頂くようお願いします』
 
と、簡潔なアナウンスが店内に流された。
 
これにブーイングが起きるのはお約束で、素直に出て行く客などいようはずがない……と思っていたのだが。


「今日土曜日でしょ?陸燈って毎週ストリートライブやってるんだって!友達が見かけたらしくってさあ」
 

と、一人の女性客からそんな言葉が漏れた途端に、それは電光石火の如く店内に広がり、一様にルソワールから客が出て行く。
 
それを薫季と秋司は隅っこで目を丸くしながら眺めていた。


「凄い反応だな」
 

薫季の口からぽろりと漏れる。
 
それに秋司は深く頷いた。


「怖いくらいに熱烈だ……」
 

呆けている二人は頭の働きも鈍くなり、遅ればせながら薫季がようやく提案した。


「俺たちも行くか?きっとこんなライブじゃあいつも物足りないだろうし」

「……だな」
 

いつかの光のことを思い出した。自分のレベルで叩けない物足りなさから、最後に残ってドラムを叩いた彼のことを。
 
何とはなしに周りを見た秋司は、あることに気付く。
 
いない?


「真空ちゃん、何処行った?」

「あれ?そういえば……。きっとあのどさくさに紛れて兄ちゃんのところにでも行ったんじゃないのか?」
 

足は普通に立っていたから痛みはひいたのだろうと思う。
 
もちろんそれは、そう思わせるための真空の痩せ我慢だった。



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