地球、最後だってさ。
今、吹く風は昼の風とは違って冷たかった。
薄暗い町並み、
私は景色を見る余裕もなく自分の体を温めるので精一杯だった。
拓也さんも同じだった。
彼はものすごいスピードで車を走らせる。
昼間とは打って変わって、
私は何度も振り飛ばされそうになる。
田舎にしては大きい病院に着き、
拓也さんは千恵さんを抱え、病院の中へ入っていく。
私も彼らのあとを追った。
そして、少し時間がたち、
私と拓也さんは外で千恵さんの診察が終わるのを待っていた。
「千恵と赤ちゃんになんもなきゃいいけど…。」
拓也さんは白い息を手に吹き掛けて、本音を漏らす。
「最近、顔色悪かったからなぁ。外にも散歩に行かないし。
って、それは俺がしつこく言うからか。」
彼は彼女の外に行かない本当の理由を知らないみたいだ。
「拓也さんは…千恵さんのお腹の赤ちゃんのことどう思ってますか?」
「どうって?」
返答に困った。
はっきり言うべきか、オブラートに包んで言ったほうがいいか。
オブラートに包んで言うにしてもどう言ったほうがいいのか分からない。
「俺は後悔してないよ。」
言葉を探していたら、先に彼が口を開いた。
その言葉は千恵さんも言っていた。
「子供ができなくても俺は千恵と仲良くいるつもりだった。
だけど、お腹の中に赤ん坊ができてから、
なんか使命っていうものができたんだ。」
彼は嬉しそうにほほ笑む。
その顔はお父さんの顔だ。
「守るものがもう一人できた。それは千恵との愛の証。」