地球、最後だってさ。
“愛”
こんなところで“愛”と聞けるとは思わなかった。
その愛はがらくたではなくカッコいいものだ。
「でも、俺、頼りねぇからなぁ~。
お茶だってろくに汲めねぇし…。ダメパパだぁ。」
とまぁ、彼はさっきのカッコよさの面影は消え、へこたれる。
「でも、カッコ良かったですよ。」
私はぽつりと言った。
「千恵さんがピンチのとき、王子様みたいでした。
・・・お茶の汲み方が分からなくても、
お腹の中の赤ちゃんは拓也さんが世界でたった一人のパパだと思います・・・。」
自分で言ってて少し恥ずかしくなって、目を伏せた。
拓也さんは「王子様かぁ…」と照れくさそうにつぶやいていた。
思ったことは言えた。
それが励ましの言葉になるのなら・・・
嘘ではない。
「住野千恵さんの旦那さんですか?」
医者がひょっこり顔を出し、私たちの空気が一瞬で凍りつく。
拓也さんは「はい!」と気をつけをして言った。
「病室まで案内します。着いてきてください。」
私たちははやる気持ちを抑え、無言で彼のあとをついて行った。
病室に行くとなぜか笑い声が飛んできた。
「だっははははははは。
何、深刻な顔してるの。私はまだ死んでないよぉ~。」
明るい千恵さんの声だ。
状況が理解できていない私たち。
「ただの腹痛だって。最近、便秘気味だったからねぇ。」
そう言って何もなかったかのように笑いだす千恵さん。
私の隣にいる拓也さんは怒ることを通り越して呆れていた。