優しい刻
灰色の空は今にも雨を降らせそうな位に重く、それに比例するように空気もじめじめと湿っていた。

こんな日だけれど私は今日大切な約束をしている。

あの、私が危うく自殺になりそうだった歩道橋の上での待ち合わせ。
忙しなく色とりどりの車が行き来する大通りを跨ぐそのコンクリートの歩道橋は、あまり人気が少ない上に広々としていてベンチまである。
仕事の昼休み、私が悩み事を考えるのに訪れる隠れスポットだったりする。



待ち合わせ10分前、早過ぎたかなと思っていた私は、予想外にも早々に待ち合わせ相手を発見した。



「佐々木さん!」

「おぉ、優美さん。早かったね」

呼び掛けると、相手は皴の多い顔で優しく微笑み手を振ってくれた。

「すみません!早めにきたつもりだったのですが……」

「いやいや、わたしが早すぎたのだよ。歳を取ると何かとせっかちになってしまってね」

朗らかに笑う佐々木さん――私の命の恩人である佐々木衛(マモル)さんに、私も自然と笑顔になった。



< 12 / 38 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop