優しい刻
仕事が忙しくてなかなか休めないお父さん。

だけど私は卒園する前の最後のおゆうぎ会でシンデレラの役に決まっていて、どうしても見に来て欲しかった。



「お父さんはその日仕事があってね……」

そう話す母に、きっと私はひどく悲しげな顔をしたのだろう。

おゆうぎ会の前夜、父は私に言った。

「お休みが取れたんだ。優美のシンデレラ、楽しみにしているよ」

眼鏡の奥の瞳が優しく細められて、温かい大きな手は私の頭を撫でてくれた。
飛び上がって喜んだ私を見て、両親は顔を見合わせて嬉しそうに笑っていた。



そんな二人の笑顔を見るのがこれで最後になるなんて



私は、考えもしなかった。



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