優しい刻
車で幼稚園に来ることにしていた両親は、居眠り運転をしていた大型トラックに追突された。
ぐちゃぐちゃに潰れてしまった車内には、私にプレゼントするつもりだったのだろう、くまのぬいぐるみがあったと聞く。

「お父さん、」

ひんやりとした霊安室。

「お母さ、ん……?」

二人の顔は少し擦り傷があるもののとても綺麗で。
幼い私は眠っているんだと思った。――思おうとした。

きっと事故なんて嘘なんだって。
呼んだら、また「優美」って言って笑ってくれるって。



恐る恐る伸ばした手が母の頬に触れたとき、私は凍えるような冷たさを感じた。父に触っても感じることは全く同じ。

――暗い暗い暗闇に

寒くて寂しいこの空間に

私は『独り』になってしまった。



「香織っ!!」

静寂を破る大きな音を立てて後ろの扉から入ってきたのは、母と同じ位の歳の女の人。

「そんな、本当に……光輝さんまで……っ」


母と父の名を呼びながら涙をボロボロと零すその女性は見覚えがあった。


「みさと、さん……?」

「っ!優美、ちゃ……!!」

私に振り返った瞬間、美里さんは私を力一杯抱きしめた。

「優美ちゃん……っ!!辛かったね……っ」

母と親友だった美里さん。

祖父母と疎遠だった両親は私以外にお葬式をしてあげられる身内はいなくて、それなのに結局祖父母とは連絡もつかなかった。

父には母と美里さんのような親友はもう何年も疎遠で、お葬式やお墓、何から何まで美里さんとその御主人がこなしてくれた。



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