優しい刻

身寄りの無い私を、美里さんは引き取ってくれた。

私の一つ下の娘さんがいて、その子と私を同じ様に愛してくれた。



『貴女の二人目の親だと、第二の家だと思ってね』

そう言って微笑んだ美里さん夫婦は、最期に見た両親の姿と重なった。





「何不自由無く育った私は、父と母が私の為にと貯めていてくれた貯金を使って高校へ通い、奨学金で大学に行きました」

取り留めのない私の昔話はとても拙いものだったが、佐々木さんは静かに聞いてくれていた。
見つめるばかりですっかり冷めてしまった珈琲で喉を潤し息をついていると、佐々木さんは口を開いた。

「……その祖父母を恨んだかい?」

“恨んだ”

そういえばそうかもしれない。
お父さんとお母さんが居なくなってしまったのに姿も見せないのは、本当に悲しかったから。

――けれど。


「恨んではいません。ただ――出来たら、傍に居てほしかった」

「そう、か」


佐々木さんにそう伝えた私の顔は、どんなに悲痛な色をしていただろう。

私は、両親を亡くした時世界から放り出されたような気がした。自分の血縁者は一人も居ない。
私の味方はいないのだと、突然深い落とし穴に突き落とされたような、そんな気分。


「優美……この名が、私の両親からの最大のプレゼントだと思って生きてきました。だから、この名に恥じない人間になりたいと思いました」



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