優しい刻
穏やかな昼下がり、普通なら誰もが寛ぎ楽しく食事をとるような時間帯。
そんな時分なのにせわしなく行き過ぎる四角い鉄の箱。
何をそんなに急いでいるのだろうか。
都会らしい排気ガスいっぱいの臭いに少し眉を寄せながら、私は歩道橋の真ん中で、手すりに寄り掛かりながら真下を見下ろしていた。
あの箱一つひとつにそれぞれの人生があるのだろうけど、ここから見れば蟻と同じだ。
不意に眠気がさしてきた。私の意思に関係なく閉じていく瞼。
暗転していく世界の中で、ふと身体がふわりと浮く感覚を覚えた。
何故か傾いていく地平線。周りに見えていた建物も傾いていくけれど、私は何故かそれを少しも不思議に思わなかった。
私は、ただ身を任せるように目を閉じた――……