優しい刻
「片川さーん、リハビリの時間ですよー」
また仕事の日々がやってきた。
外科の大部屋担当の私は、今日も朝から仕事をこなす。
「お、如月さんだ。今日も朝から爽やかだねぇ」
「そうですか?」
松葉杖を用意する私にそう声をかけたのは、膝を痛めて今リハビリ中の片川さんという男性患者。
「でも今日は何時もより明るい感じですね。何か良いことでも?」
隣のベッドの一宮さんまでそんなことを言う。
眼鏡をかけた一宮さんは何故か嬉しそうにこちらを見る。
――佐々木さんという命の恩人に人生相談までしてしまった私は、本日清々しい気持ちで出勤した。
そんな今日はともかくとして、私はそんな爽やかに毎日仕事をしていたのだろうか。
「ちょっと吹っ切れたことがあって。でも、私ってそんな爽やかでした?今までも?」
そう片川さんと一宮さんに尋ねると、二人は暫しキョトンとして顔を見合わせた。すると六人はいる大部屋にどっと笑いが起きた。
「あははっ!如月さんてっ、くくっ……」
「何となくそんな気がしてましたけどね……っ」
「えっ――えっ!?」
見回せば皆が微笑ましいとでも言いたげな表情を浮かべて笑っている状況に、私は一人混乱する。
私があわあわと挙動不審になっていると、余程面白かったのかうっすら涙を浮かべた片川さんが口を開いた。
「如月さんは爽やかっていうよりふんわりってのが適切かなぁ。何を頼んでも優しい笑顔で答えてくれる、本当に優しい看護師さん」
「わっ、私が――……っ?」
「評判ですよ?外科に、小さくて笑顔の素敵な優しい看護師さんがいるって」
そんな話、始めて知った。