優しい刻
主任の真剣な顔付きとは対照的に、この時の私の顔はさぞ間抜けた、呆けた表情をしていたことだろう。

「今まで、水野さん達の尻拭いばかりさせてしまってごめんなさいね」

主任の一言に、私はやっとの思いで首を振った。

「貴女だけじゃない、私にだって理想の看護師像はあるわ。それは決して笑われるべきことじゃない。当たり前の事だと思ってる」

「主任……っ」

主任の輪郭が歪んでいく。視界がぼんやりとなってしまって初めて、私は自分が涙を流していることに気がついた。
とめどなく流れる涙は、今まで我慢してきた分に比例するように溢れる。

「私……っ」

「最初は何度も注意していたのよ。でも結局ああいう人間は話を碌に聞かないでしょう?だから、上に掛け合ったの。再教育するために」

「再教育……?」

泣いてばかりもいられないような話の雲行きに、私は必死に涙を拭いた。

「えぇ。だからもう少し貴女に頑張って欲しいのよ。……お願いしていいかしら?」

私は少しの緊張と不安を感じながら、それでも覚悟を決めた。


「やります。それが結果的に患者さんの為になるのなら」



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