優しい刻
前川主任の言葉に、私は見透かされたような気がした。

私が嫌だと言えないこと。

振り切れない罪を纏っていること。

真っ直ぐに私を射る主任の言の葉と澄んだ瞳に私は一瞬たじろいだ。
私は変われるだろうか。
変われるとしたら、どうなりたいの?

水野ありさの件は、私を変えるきっかけに成り得るか。



「貴女次第よ」



思わず俯かせていた顔を上げると、前川主任の試すような表情に出会う。



「――……はい」



膝の上の拳をぎゅ、っと握りしめ、私は小さく覚悟を決めて頷いた。





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