優しい刻
その次の瞬間だった。

「早まっちゃいけない!!」

「えっ――……」

叫び声と共に私の身体が引き戻された。
何が起こったのか咄嗟には分からなかった私は、落ち着いてきてやっと状況を把握した。

「私、後少しで……」

「早まっちゃいけないよ、お嬢さん!」

「あ……」

後少しで、私は歩道橋の上から落ちる所だったのだ。
それを、助けられたらしい。
私は慌てて頭を下げた。

「すみません!危ない所を有り難うございましたっ」

「?……自殺するつもりでは無かったのかね?」

「じっ、自殺!?とんでもないです!!ぼーっとしてただけなんですけど、まさか落ちそうになるなんて」

本当に自殺なんて考えていなかったし、私が自殺するなんて有り得ない。多分最近夜勤が続いていて寝不足だったから、歩道橋の手すりに寄り掛かるうち寝てしまいそうになったのだと思う。

「それなら良かった。まさか命を絶つつもりなんじゃないかと思ったんだ。尚更、助けられて良かったよ」

顔を上げると、助けてくれた年配の男性が優しい笑顔を浮かべていた。



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