優しい刻
ピリリリリ――――……

慌ただしく朝のミーティングを終え、一通りそれぞれが担当患者の元から戻ってきたナースステーションに、忙しないナースコールが鳴り響く。

たまたま近くにいた主任がとるが、その顔は瞬時に険しくなった。

「如月さん!402号室の金田さんお願い」

「分かりました」

主任にカルテと必要な物を手に私はすぐに立ち上がる。

「行ってらっしゃぁ~い」

厚めの化粧を施した顔でふふ、と笑ってまた他の看護師と話しはじめたのは、本来402号室の金田さん担当の看護師・水野ありさ。
彼女のあんまりな態度に腹を立てながらも、私は軽く会釈してその横を通りすぎた。


『本当、真面目って感じよね、あの子。看護師に超のつく理想持ってますみたいな』

『現実なんてそう甘くないっての!』

『でもあの無駄な正義感のお陰で私たち楽できるし?』

――言えてる!

アハハハハ!と下品な笑い声を背中で聞きながら、私はこの病院に勤務して何度目か分からない溜息をついた。


全部聞こえてるって。


呆れながら、私は歩く速度を速めた。

ついた402号室のスライドドアを開くと、金田さんが申し訳なさそうに頭を下げた。




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