優しい刻
ナースステーションに戻る道すがら、なんだかやるせない気持ちになっていた。

看護師になろうと思ったのは人を救いたかったから。確かに理想と現実は違う。現場はいつでも人手不足だし仕事も過酷だ。
けれどその溝は、看護師側の努力で少しは埋められるはずなのに――……



私が大学を卒業してこの病院に就職したのは一年と少し前。
この病院の信条である『手厚い看護体制』に惹かれたのだ。一年目は仕事に慣れるのに精一杯だったけれど、今は立派に一人前だ。

しかし、やるぞ！と意気込んだ矢先。体制強化の為の増員で雇った看護師たちがやってきた。そのうちの一人が水野ありさだった。


――最初の内は良かった。主任がしっかりした人で、やる気のなさ気な水野ありさを始めとした数人を諌めていたから。


けれど体制の強化に喜んでいたのも束の間で、前主任が結婚・出産のため産休をとり、今の主任になった。
残念ながら、今の主任は事なかれ主義……水野ありさ以下三名を上手く扱える人間ではなかった。


< 9 / 38 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop