純愛ワルツ
「…いや、君はココの常連さんだから知ってるんですよ」



何とか言い訳をして、カップに珈琲を注いでいると


胡桃がヒョコッとカウンターに身を乗り出した。






「そういえばアナタ、初めて見る顔ですね。新入りさんですか?」


「…いや、夏前からなんでかれこれ3ヶ月になりますね」


「あれ、そうなんですか?…ちょうどアナタのシフトと合わなかったのかな」




胡桃は首を傾げながら会計を済ませると

カップの乗ったトレーを持って去って行った。






…分かってたけどさ

改めてあぁ言われるとへこむな。






「本当に…ただの常連さんと店員になっちゃったんだなぁ…」




消えた記憶を取り戻すにはどうしたらいいんだろうか。


頭を叩く?
ショックを与える?
忘れた記憶と同じ事をもう一度する?



…いや

それは何かの弾みで記憶が消えてしまった人への療法だ。




胡桃は自ら望んで

俺の記憶を消した。





だから彼女が望まない限り、どうしたって記憶が元に戻る事はない。






…俺も忘れよう。


それがいい。




そうすれば俺も傷付かないし

胡桃を責めないで済む。




うん。

そうしよう。
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