イネ
会社にも馴染んできたある日、イネは、いつものように、1時間早く出社して、社内を掃除していた。
「会議室は、こちらですか?」「はい?」振り向いてイネの体はカチコチになってしまった。たち振る舞いといい、顔立ちといい、
「美しい」という言葉がピッタリの、みたことのない男性が立っていたのである。あわててホウキを後ろに隠しながら、会議室の扉を開けてあげた。
・・・「ありがとう」「・・・はい、いえっ・・どういたしまして・・」このとき、自分の机まで、どうやって戻ったんだか、ホウキはどこへ置いてきたんだか、さっぱりわからないくらいであった。体温は40度近くになった感じで、口から心臓が飛び出るかと思った。冷静なイネには珍しい動揺ぶりだった。

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