1 3 6 5 8 3
ふと左腕に何かがぶつかった。

俺にぶつかったそれは、ヨロヨロと力なく地面に尻餅を付く。


「あいたたた……」


ペタンと座り込んでいたのは、一人のばあさんだった。

右の頬には大きな茶色いシミ。

頭髪はほぼ全て白髪の、どこにでもいる普通のばあさん。

転んだ際に痛めたのか、顔を歪めて左足首をさすっている。


ふと視点をずらせば、


籠から飛び出した野菜。
転がり落ちた林檎。


「チッ……」


めんどくせぇ…



バイトに遅れちまう。

何たって生活かかってんだ。

悪ぃな。


俺はばあさんをほったらかして、駆け出した。

罪悪感は、ない。

だって生活が

人生がかかってんだ。


今度のバイトがクビになって、新しいバイトを探す気力なんて今の俺には到底ない。


…ただ…



左腕に残る微かな温もりと人体の感覚が


気持ち悪かった。

< 10 / 37 >

この作品をシェア

pagetop